B01班は、法制度における「尊厳」について、その解釈、適用について検討する。
「尊厳」は、歴史的には優れて哲学的、宗教的、思想的な概念であり、実定法領域に明確に登場したのは、ナチスによる人間に対する非人道的な扱いが集団的に行われた経験を踏まえた第二次世界大戦後のことである。具体的には、まず国際人権法(国連憲章や諸人権宣言)、ついで戦後に制定された国々の憲法などである。
この登場は、少なくとも重要な2つの意味を有している。第一に、非人道的な扱いが、人間の「身体」に対して行われることに対する強い禁止である。実定法においては、それまで「身体」は刑事手続き上の「人身の自由」として保護されてきたが、「尊厳」の登場以降は、「人の身体」に対する扱いを全般的に指すようになった。第二に、その反面、「尊厳」概念は、個人の自由の行き過ぎに対する制約となり得るという点である。個人の意思や自己決定が個人や人間(人類)の「尊厳」を毀損するとみなされる場合には自由を制約する(唯一の)根拠となり得る。
このように「尊厳」は、実定法において抽象的な概念であり主観的な解釈を導きやすい概念であり、その点で危険性を孕む。しかし、先端科学技術や先端医療技術の進展を背景とした事象において「生命」や「人類の将来」のような、重要だが定義しにくい対象を保護するうえで重要な役割を担っているとも言える。本研究は、憲法、生命倫理法、人権および「表現の自由」やプライバシーの権利保護などにおける「尊厳」に関して、主観的で抽象的な議論に留まらないために、それぞれの場合において「人間の尊厳」は、①どのような憲法原理なのか、すなわち、どのような場合に適用されうるのか、対立する権利や価値は具体的に何なのかを明らかにする。そのうえで、②公権力に課せられた「尊厳」を保護する義務、③個人の自由や選択との関係で、「尊厳」がそれらの自由や選択を制約する場合の法的根拠、に関して明らかにし、法的概念としての「尊厳」をより明確にすることを目的とする。