2023年度活動報告

2023年は、グループの研究の中心は、グループのメンバー4名と研究助手(RA)1名がそれぞれ研究している分野である憲法学、比較法学、国際人権法学、生命倫理学、情報法学(情報とプライバシー)、法哲学(性・生殖・ジェンダー)における尊厳と法をめぐる現状と課題を共有することに焦点をあてた。

グループは4月と9月に2回の内部勉強会、12月に1回の公開勉強会を開催し、4人のメンバーのうち3人が発表を行った。4人目のメンバーの研究報告は、2024年度に外部研究者との対話形式で行われる予定である。各メンバーの個別の研究成果については、論文や報告書等をご参照いただきたい。

2023年には、主に欧米(米国、フランス、EU、欧州人権裁判所)と日本における尊厳概念を検討した。ヨーロッパのヒューマニズムの強い基盤を持つ尊厳概念の「法典化」は、第二次世界大戦中のナチス・ファシスト国家による非人道的な行為や医学利用を防止し処罰するために、戦後の国際法において初めて始まった。それ以来、各国の憲法や生命倫理法に規定され、裁判官によって事案に応じて解釈・適用が深められてきた。

特に生命倫理の分野では、個人の自由が行使できるか否か、その自由の限界はどこにあるかなど、自由が制約される場面で尊厳が適用されている。 また、尊厳は、それまでの権利概念では十分に保護されてこなかった生活の質を保護するものとして援用されることもあり、例えば、刑務所における住居や処遇における尊厳の保護などがある。

2023年の「情報とプライバシー」、「性と生殖に関する権利」、「ヨーロッパにおける尊厳の法典化」に関する裁判例やその他の先例の検討から、尊厳が「法典化」されれば、それまでは権利として明確に保護されてこなかった分野や文脈においても、裁判所の解釈の展開と深化を通じて権利として保護されることが明らかになった。

しかし、日本国憲法は、個人の尊重を明記するため、個人の尊重、個人の尊厳、人間の尊厳の間だの解釈や定義の違いを明確にする必要がある。日本国憲法の解釈においては、個人の尊重が保障の解釈・適用が明確化される事が重要である。その後に、個人の自由を制限する「人間の尊厳」の保護の射程を明らかにする必要があることを認識することが重要である。